高北謙一郎の「物語の種」

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ピープル・タイム

先日、Facebookにて、とある友人が「こんな日はスタン・ゲッツとケニー・バロンのピープル・タイムだよねぇ」なんてことをつぶやいていて、「いったいどんな日なんだ?」とのことで、私もCDラックからアルバムを引っ張り出してみた。

 

ピープル・タイム

ピープル・タイム

 

ライブ盤。サックス奏者、スタン・ゲッツの生涯最高傑作にしてラストレコーディングアルバム。という触れ込みでよく語られるが、スタン・ゲッツはいつだって最高だせっ! とか言ってみる私。別に全アルバムを持っているわけではないが…。

 

まぁ、何はともあれ彼のサックスがスゴい。滑らかなフレージングはいつものことだが、そこに力強さが加わった感じ。

死の直前ということを殊更に強調する必要はないと思うが、それでもやはり、「最後の完全燃焼」を感じてしまう。

 

ライナーノーツには、共演したピアニスト、ケニー・バロンの手記が掲載されている。

癌の進行が最終段階へと入っていたゲッツはその夜、ひとつのソロを終えるたびに息を切らしていたという。あまりの衰弱に、ケニー・バロンにピアノソロを頼みもしたという。それでもそんな中、これほどの演奏を成し遂げてしまうあたり、やはり「天才」なのだろう。

 

 

First Song

First Song

  • provided courtesy of iTunes
Sofltly As In a Morning Sunrise

Sofltly As In a Morning Sunrise

  • provided courtesy of iTunes
Stablemates

Stablemates

  • provided courtesy of iTunes

 

いまや懐かしいCD2枚組のゴツいケース。久々に引っ張り出したこのアルバムは、それでも聴くたびに新鮮な感動がある。disc2の1曲目、first songの静かな凄みが、「本当にこの日が最後だったんだな」と思わせる。それぐらい、彼のサックスがしぼり出すフレーズには命が宿っているように思う。

 

そして、デュオで演奏させたらこのひとの右に出る者はいないとされる達人、ケニー・バロンのピアノも素晴らしい。

 

けっきょく最後まで友人のいう「こんな日」が「どんな日」だったのかは分からなかったが、大量のCDに紛れその存在を忘れかけていたこのアルバムを思い出させてくれたことに感謝したい。