高北謙一郎の「物語の種」

読み物としてお楽しみいただけるブログを目指して日々更新中。

箱男

昨日の引越しネタで段ボール箱の画像を貼りつけた時に思い出した。

 

 

箱男 (新潮文庫)

箱男 (新潮文庫)

 

 

安部公房著の「箱男」は、妙に印象に残る作品として記憶している。

出だしから、頭からすっぽりダンボールを被るために必要な寸法やら、外を覗き見るために穴を開ける位置の細かい設定やらが書かれていて面食らう。

 

箱の内側から外の世界を覗きみる男の物語。

 

正直、分かりにくい作品だ。物語の構成も奇抜というか実験的で、あまりこの手の作品を読み慣れていない方にはツマラナイかもしれない。

 

私もこの作品を理解できているかというとまるで分からないのだが、この作品の根本を成すその設定に強く惹かれる。

 

ダンボール箱を被るという行為は、言ってみれば仮面を被るのと同じだ。それを被ることで他人からの視線を遮りつつ、自分は他人を覗くことができるという優位性を得る。

しかし、同時に箱の中に逃げ込むことで個としての存在は失われる。その場所に居ながら、その場所に居るとは認められない。居るのはただ「箱を被った男」であり、自分ではない。

 

そんなあやふやで不確かな存在に憧れを抱くのは、たぶん私だけではないだろう。

 

そう、不確かな存在となることは決してマイナス要素とはならない。いわゆる仮面効果だ。その匿名性こそが、いつしか日常の中で自分を縛りつけていた枷を取り払うチカラとなりうる。

 

…なんてことをゴチャゴチャ考えながらこの本を3回ぐらい読んでいるが、そのたびに妙に引き込まれる。

好き嫌いは分かれそうだが、好きな方には最高に嵌まる作品かと思う。

 

あ、引越しがてら、段ボール箱を被ってみることは、オススメしないでおく。いちおう。

 

 

 

最後についでだが、安部公房氏の作品をいくつかご紹介しておく。私にとって彼の作品は、強く惹かれるけど大好きとはいいにくい、奇妙な存在だ。たぶん、どこかで「ヘンなヤツ」とか思っているのだと思う。

 

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 
R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

 
笑う月 (新潮文庫)

笑う月 (新潮文庫)

 

 

最後といっておきながら、蛇足をひとつ。

何故、本のタイトルに「○○男」とつける作品が多いのか、とても気になる。

古くは「電車男」、「脳男」、「地図男」なんていうのもある。編集者の好みなのか、あるいは統計的に売れるとか、なにか理由があるのだろうか? ご存じの方がいたら教えていただきたい。