『白の闇』
最近のコロナウィルス感染に伴う騒動をみるにつけ、この物語を思い出す。
ある日とつぜん視力を失う病。
視界を白い霧が遮るように、感染者は視力を失う。
感染の勢いはコロナの比ではない。瞬く間に街は封鎖され、ひとびとは隔離施設に連れ去られる。しかしそれも束の間、施設を管理する側の人間たちもまた、いつしか視力を失い、そこは無秩序な地獄と化す・・・
物語はそんな流れで展開していくが、当然この感染力は施設内だけのものではなく、ようやくその場を主人公たちが脱した時にはもう、世界中のひとびとが視力を失い、世界は崩壊していて・・・
よくできた物語としてとても印象に残っていたのだが、昨今の情勢を見ていると、起こりうる現実として、ジワリと恐怖を憶える。
いま、様々なパンデミック系の作品が世間でも再注目を浴びているようだが、個人的にはジョゼ・サラマーゴの『白の闇』を推す。
今はまだ、世界的な規模では秩序は守られている。それでも、それが絶対に続くとはかぎらない。崩壊は、一瞬にしてやってくる。
昨日おとといの週末、世間ではふたたび外出するひとびとが増えてきた、との報道があった。どうしても周囲に感染者がいないと現実味に乏しい話として捉えられてしまうのは仕方がないことだとも思う。
それでもすべてのひとびとが、少なくともその可能性に思いを馳せることが、大事なことのように思う。
と、今日はなんだか真面目な文章になってしまった。
まぁパンデミック物の作品はたくさんある。たとえそれが娯楽として消費されようとも、少なくともその時間そのひとをその場に繋ぎ止める効果はあるだろう。不謹慎との声もあがるのかもしれないが、いっそテレビでも、もっとその手の映画を放映しても良いのではないかと思ったりもする。