高北謙一郎の「物語の種」

読み物としてお楽しみいただけるブログを目指して日々更新中。

引越し

 

 

毎年恒例だが、引越しシーズンだ。

アパートに暮らしていると、隣近所の移動はそのまま生活に直結することもある。

ヘンなひとが入居したら困る。

という切実な問題だ。

 

もともと、いまのさいたま市のアパートに引越す前、私と奥さんは大宮のマンションに暮らしていた。ピアノ可の物件だったにもかかわらず、たったひとりの住民がクレームをつけてきた。ただのクレームではない。奥さんがピアノを弾くと、必ず共用ポストにはサイレントピアノのチラシが投函された。それだけならいいのだが、嫌がらせはエスカレートして、朝の3時とかにピンポンダッシュをされたりもした。奥さんがひとりの時、ちょくせつ玄関前までやってきたこともあった。

 

 

さすがに身の危険を感じて出ることにしたが、不動産の方もマンションの管理人の方も、申し訳ないとは言ってくれたものの対処のしようはなかった。

 

そんなこんなで、やはりヘンな住民が越してきたらイヤだな、との思いがある。

 

 

 

 

そういや、この時とは別の引越しだが、以前、物件を回っている時、衝撃的な事件に巻き込まれた。

 

仲介の女性と私とで、候補としていた物件を訪ねた。この物件、普段はもちろん施錠してあるのだが、内見の予定がある場合、前もって鍵を開けているそうなのだが…

 

 

到着し、中に入ろうとしたのだが、玄関の扉の鍵が掛かっていた。

 

ん? 仲介の女性が不思議がる。ちゃんと事前に内見の知らせはしているし、鍵を開けたとの知らせも受けている。なのに、何故?

 

誰か中に入り込んで鍵を掛けちゃったとか?

しかし部屋の中は真っ暗。そう、我々が内見に訪れたのは夜になってからだ。部屋の中はひっそりと静まり返っている。

 

仲介の女性が事務所の上司に連絡。近くにいるとのことで、すぐに合流。

 

上司の方、「やっぱり誰かいるのかも」とのことで、玄関の投函口から中を覗き込む。ペンライトで照らす。と、

「あ、靴がある」

 

短く叫ぶ仲介の女性。すでにただならぬ緊迫感。上司の方、投函口から声をかけてみる。

「誰かいるんですか?」

 

返事はない。

 

もういちど、「誰かいるんですか?」

 

返事はない。

 

さらに、「いるんですよね? 靴、ここにあるじゃないですか? 出てきてください!」

 

と…

 

ペンライトの光の中に、ふらりと現れたのは、年老いたお婆さん。

 

「うわっ!」

 

全員、悲鳴。

 

 

…いやはや、あの時は驚いた。なにもない真っ暗闇の部屋の中に見知らぬ老婆がいた、という事実も衝撃的だったが、あの登場シーン!

まさにホラーだった。

 

けっきょく上司の方が警察を呼ぶことになり、私と仲介の女性は他の物件に移動した。当たり前だが、私と奥さんがその物件に暮らすことはなかった。

 

後日わかったことだが、なんでもその老人、以前にその部屋に住んでいたことがあるとかで、あたりを徘徊していたらしい。もちろん、アルツハイマーを患っているものと思われる。で、その日は偶然に扉の鍵がかかっていなかったため、中に入り込んでしまった。で、鍵も施錠してしまった。と…

 

いまは近所の娘夫婦と暮らしているそうだ。…って、余計にコワイ。近所にいるってことは、もしあの部屋に引越していたら、夜とかあのお婆さんが訪ねてきてしまうかもしれないのだから。

 

引越しとは、いろいろあるものである。

 

皆さまが、こころ穏やかに引越しできることを祈る。