高北謙一郎の「物語の種」

読み物としてお楽しみいただけるブログを目指して日々更新中。

損得勘定

昨日、近所のスーパーで買い物をした。

50円引きのクーポン券と8%引きのクーポン券を握りしめて。

 

 

50円引きの方は、普通に会計の際にその分を引いてくれる。 

しかし8%の方は色々と制約があって、

割引商品とかアルコール類には適用されなかったりする。

 

サテ、そんな中、私は晩ごはんの食材とデイリーなワインを買い込んだ。

 

レジには研修中の女の子が。

 

私の2人前に並んでいた意地悪そうな年配の女性が、レジ打ちの途中でごちゃごちゃと口を挟んでいた。すっかりリズムを崩してしまった彼女は、案の定、間違いを犯してしまったようだが、この時はまだ分からない。いったん、会計は終わる。

 

しかし、私の前に並んだ女性が会計をしている時、先ほど会計を終えた年配の女性が横から割り込んできて、「あんなに気をつけろって言ったのに、間違ってるじゃないの!」と、怒鳴り込んできた。

 

「スイマセン、サービスカウンターで言っていただければ」

とその場を切り抜けてはいたが、なんとも気の毒に、と思わざるを得ない光景だった。

 

で、私の番だ。

 

さすがにあれだけ嫌味を言われたあとだし、間違うことはないだろう。

そう思いつつも、何となく意識は彼女のレジ打ちに。

 

全体の会計が終わる。最後に、買った商品の中でイチバン値段の高かったモノから8%が割引される。もちろんアルコール等の対象商品は除いたモノの中で。

 

しかしそこで、彼女は思いがけない言葉を告げた。

 

「998円から8%を引かせていただきます」

 

ん?

 

998円? 998円といえばその日のワインの値段ではないか? もともとが安物なんでお恥ずかしいが、昨夜はアルパカのロゼスパークリングが飲みたかったのだから仕方がない。

 

 

そんなことよりも、私は頭の中で素早く考えた。

「これ、素直に申告すべきだろうか?」と。

 

まさか研修中の女の子が、私が得をする方に間違ってくれるとは! 

およそ80円の値引きなんて、そうそうあるものじゃない。

 

とはいえ、もしもこのまま私が帰ってしまったら、あとでこの子は怒られるかもしれない。下手をしたら給料から80円、引かれてしまうかもしれない。

どうしよう…どうすべきか…。

一抹の罪悪感が私を苛んだ。ということだけは、キチンとここに明記しておこう。

 

 

が、しかし、

 

最後には、私は悪魔の囁きに負けたのだ。

 

 

どうせたいした値段ではない。いつもこの店で買い物しているんだし、たまにはこんな事があっても良いだろう、と。

 

私は悪魔に弱い。たぶん天使よりは悪魔の方が好きだ。友だちと言ってもいいかもしれない。人間それぐらい欲望に素直であった方がいい。そう思う。だから、私はいそいそと支払いを済ませ、途中で呼び止められたりしないうちにと、いそいそと商品を買い物袋に詰め込み、いそいそと店を出た。

 

店を出て安心した。帰り道は、ちょっと得した気分でルンルンだったぐらいだ。

 

しかし、悪いことは出来ないものである。

事件は部屋に帰ってから発覚した。

 

部屋に戻って食材たちを冷蔵庫に仕舞った私は、興奮冷めやらぬままに、受け取っていたレシートを引っ張り出した。確認する。値引き、80円。アルパカ スパークリングワイン。

…おお、やっぱりアルコール類から値引きしてもらった! なんというお得感!

 

と、そう喜んでいた。

これにプラスして50円引きのクーポン券も渡してあるのだ。

今日はシメテ130円のお得ではないか!

 

と、そう喜んでいた。が…

 

あれ?

 

その時、私の目はレシートの「クーポン」部分に惹きつけられた。

 

クーポン   50円

 

ん?

 

クーポン   50円?

 

マイナス50円、ではなくて…?

 

ナント50円引きのクーポン券を出した私に、彼女はプラス50円というしっぺ返しを仕掛けていたのである。

 

気づかなかった…。

 

まさか、そんな大どんでん返しを仕掛けられようとは。

 

50円引きクーポンを値引きし忘れる、なんてことは時々あるからそこには注意していたのだが、まさかプラスとは…

 

試しにトータルの値段を確認したが、やはり50円がプラスされている。

 

えっと…これって、サービスカウンターに持って行ったら値引きしてもらえるのかな?

 

いや、しかし、このレシートを持って行ったらアルコールから8%引かれていることに気づかれてしまうのでは…

 

おぉ、なんという葛藤! なんという絶望! 

 

 

いやはや、悪いことはできないモノである。

 

私がそのレシートを破り捨てたのは、言うまでもない。