高北謙一郎の「物語の種」

読み物としてお楽しみいただけるブログを目指して日々更新中。

無響室という空間

先日、初台の方に出掛けたことはこちらのブログでもお伝えしたが、初台といえばもうひとつ、「東京オペラシティ」があることを忘れていた。

 

そういえば今年の夏、オペラシティに遊びに行っていたのである。遊びに行っていたにもかかわらず、先日の私は京王線で迷子になったわけだ。やっぱり分かりにくいんだよ、京王新線(根に持ってる)。

 

それはともかくとして、あのバカみたいに暑かった夏、わざわざそこを訪れたのは、とてつもなく地味な目的からであった。

 

「無響室に入ってみたい」

 

それだけである。

 

せっかくオペラシティに行きながら、有名どころのコンサートを聴くでもなく、近くの能楽堂に足を延ばすでもなく、ましてやお洒落なカフェやバーを楽しむ、なんてこともなく、私は無響室という空間を体験すべく、その場所を訪れたのであった。

 

無響室とは読んで字のごとく、音の響かない部屋だ。まぁ厳密に言えば完全に無響、というのはないらしいが、極めて無響に近いことは確かだろう。

 

無響室は、オペラシティタワーの4階、NTTインターコミニュケーションセンター(ICC)の中にある。

 

なんでそんな場所にあるのかと言えば、ICCとは科学技術と芸術文化の対話を促進し、結びつけることをコンセプトにつくられた施設(いま調べた)だからである。たぶん。

 

NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

 

オペラシティに辿り着き、エスカレーターでぐるぐると上にのぼり、ホントにこれで合ってるの? と思うような距離の通路を渡り、最後にエレベーターで4階に。イザ、ICCに。

 

ICCには無響室のほかにも様々なアトラクション型の展示物がある。しかし、私はそんなモノには目もくれない。ただひたすら、無響室だけを目指す。さらにワンフロア階段でのぼり、そしてついに辿り着いた。無響室に。

が…。

 

二重扉は開いていた。誰もいないのだろう。そのまま中に入ってみる。扉は閉まらない。この時点ですでにイヤな予感はあった。

しかし中からは、もっとイヤな予感を抱かせる、やかましい機械音が鳴りまくっていた。

 

そう、たしかに鳴り響いてはいなかった。しかし鳴りまくっていたのだ、ピーピーという機械音が。

 

小さな部屋だ。小さな部屋に、小さなスピーカーが設置されている。壁の前後左右にひとつふたつ、なんて可愛らしいものではない。悠に10数個は越える量だ。そこから音が鳴りまくっているのだ。

 

たしかに、耳を澄ませばその音がけっして反響することなく、それぞれ独立した音として認識できる。それは分かった。分かったが、そんなものは、私の求めた無響室ではない。

 

完全なる無音。

 

それこそを求めて、わざわざやってきたのだ。にもかかわらず、なんだこのひどい騒音は?

 

納得いかん。できるはずもない。しかし私にはそれをどうすることも出来ない。まさかスピーカーをすべて破壊するわけにもいかないし。

 

精神を集中した。自分の心臓の鼓動はいつもと違う感じで聴こえるだろうか? 呼吸がいつもより大きく感じたりは? …しない。機械音、うるさい。

 

 

NTT にモノ申す。音が聴きたければ手を打ち鳴らす。響きを確認したければ「やっほー」と叫んでもいい。なんならシンバルを持参することさえ厭わない。だから…だから、

 

余計なことはするな!

 

 

こうして夏の地味めな冒険は、呆気なく幕を閉じたのであった。