椿姫
いまでこそ世間にも認知されているライブビューイング。
いわゆる「映画館でライブを楽しもう!」的な発想で始まった映画館の新たな活用法だが、コレの最初期から続く企画が「METライブビューイング」だ。
ヴェルディ《椿姫》 | 演目紹介 | METライブビューイング:オペラ | 松竹
メトロポリタン歌劇団、通称「MET」。
オペラである。
本場のニューヨークで繰り広げられる最高峰の舞台を映画館の特等席で。というのがコンセプト。しょっちゅう上映されるわけでもなく、1週間という期間限定。しかも1日1回しか上映しない。貴重である。大人3600円。割高でもある。
それでも、もう10年以上の歴史があると思うが、何だかんだで年に1回か2回は観に行っている。
オペラという、基本的にはまったく縁のないジャンルの舞台に、なぜそんなに通っているのか?
最初の印象がよかったのだ。
ここ数年は午前中にスタートしてしまうことが多いが、以前は夕方からの上映だった。映画館でオペラを観て、そこからディナーに、という流れがなんだか個人的に「カッコいいじゃねぇか!」と思ったわけだ。
まぁ実際はひとりで観に行って、終わってからオトコ友だちと呑んだくれて終わってしまったが…。
それはともかくとして。
まず、スタートからしてふだんの映画と違う。入場する際にタイムスケジュールの紙が渡される。オペラは何しろ上演時間が長い。当然、上映時間も長くなる。3時間近いことなんてザラ。映画館でも、幕間の休憩なんてものが入っている。
そして、上映に先立ちまして、とのスタッフからのあいさつがあったのも新鮮だった。
そのときは、わりとコメディタッチの演目だったのも良かった。堅苦しくならなかったし、なにより歌手が歌いおわったとき、客席にむかってガッツポーズとかしちまったり、それにつられて映画館なのに「ブラボーっ!」の声が響いたりで、なんだかいつもとまるで違っていたのだ。
そんなこんなで、いまだにときどき観劇にいく。
で、今回は「椿姫」だ。数年前にも観に行ったが、今回は新演出。
以前はわりと斬新でモダンな雰囲気だったが、今回は18世紀に舞台を移しての、どこか「ムーランルージュ」っぽいツクリ。
そして、なにより主役の男性は、私が初めて観劇した時と同じお方、フアン・ディエゴ・フローレンス。いまや世界最高とも呼ばれるテノール。
うん、期待がもてる。
そしてヒロイン、椿姫はディアナ・ダムラウ。
ゴツくない…スバラシイ!
ライブビューイングの弊害として、あまりにも近くで歌い手の姿が見えてしまうため、オペラ特有のたくましい女性が、どうしても役に合わなかったりしてしまう。
以前に「サロメ」を観た時は、設定上は十代の少女、でも実際は40過ぎのゴツい女性。ちょっと感情移入がムズカシイ…。
だけど今回は大丈夫そうだ。
というわけで、観てきた。
うん、とても良かった。
というか、すごく良かった。
舞台そのものも良かったが、幕間の稽古シーンが印象的だった。音楽監督とヒロインのやりとり。音のひとつひとつの意味を考え、ニュアンスの細かな確認。静かだけど、とてもエキサイティング。プロフェッショナルを感じた。
全体的に観ても、ホントにいい舞台だった。
限られた期間だが、オススメだけはしておく。
タイミングの合う方は、ぜひご覧いただきたい。