高北謙一郎の「物語の種」

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バタフライ効果

大阪でのG20開催にともない、関東でもそれはそれは厳重な警備が行われている。とはいえ、埼玉、千葉のローカル線、東武野田線の各駅のゴミ箱まで閉鎖してしまうのは、いささかやり過ぎな気も、しないではない。

 

メインの大宮や柏なら分かる。春日部、流山おおたかの森も、まぁ良いと思う。しかし私の実家があるようなその他の駅は、正直いって田舎のちっぽけな駅でしかない。この駅のゴミ箱に何らかの悪意を持った細工が成されたとして、大阪のG20にどれほどの影響があるというのか…。

 

中国での蝶の羽ばたきがニューヨークの嵐を呼ぶ、なんて言葉があったがそれと同じようなものだろうか。

 

バタフライ効果

ちょっと、可能性を考えてみた。

以下、やたら長文になる。私が長文といった場合、ホントに長文である。いま出先、というかたは後にした方がいい。ながら歩きのかたがいるなら、立ち止まって他の歩行者の邪魔にならない場所に移動することを勧める。すでに説明が長い。さっさと始めようと思う。

 

 

例えば野田線野田市駅。改札も1ヶ所しかないようなこの駅のゴミ箱が蓋をされ、使用禁止になっていた。

そんな中、いつものように朝の出勤前、駅で噛んでいたガムを捨てようと思っていたA氏は、仕方がないので誰も見ていない隙に、ガムを自販機の横にあるペットボトルを捨てるゴミ箱に投げ込んで、その場を離れた。

 

30分後、ペットボトルを回収する仕事をしているB氏は、ペットボトルの山の中に、1個のガムを見つけた。ペットボトルにベッタリと付着したガム。舌打ちするB氏。彼は前日から妻とケンカをしていて、精神的に苛立っていた。そこに追い討ちをかけるようなガムを見つけ、あまりの腹立たしさにガムの付着したペットボトルをそのまま線路に放り投げてしまった。

 

都会の駅ならば頻繁に電車もくるし利用客も多いのでそのようなことにはならなかったのかもしれないが、ここは野田線野田市駅。誰もいない。誰に気づかれることもなく、ガムの付着したペットボトルは線路の上を転がり、やがてガムを付着した面が線路のレールに張りついてしまった。

 

数分後、野田市駅に侵入してきた電車の運転手は幸いそのガムの着いたペットボトルに気がついた。しかし緊急停止。それにともない車体に無理が生じたのか、電車故障。

 

野田線、しばし運休。

 

さて、ここに翌日からの海外出張のため、野田線から成田空港を目指していたC氏がいた。彼は焦っていた。まさかこんな場所で足止めを食うとは思ってもいなかった。飛行機は2時間後には飛び立ってしまう。別ルートは…ない。野田線、そんなに便利に作られてはいない。

彼は電車を諦めた。別の交通手段。ちょっとイタい出費になるが、タクシーを利用する。

 

ところが、ここで再びアクシデントが。

 

タクシーの運転手、D氏から「成田空港の飛行機は、設備点検のため大幅に遅れが出ている」との情報を聞く。

 

終わった。諦めるC氏。正直、積極的に取り組みたい仕事でもなかった。行き先も、誰もが心配するような治安の悪い国だ。こんな思いまでして、無理にでも行きたい国ではなかい。そこで彼は運転手、D氏に告げる。

「家に帰る」と。

 

しかし焦ったのはD氏だった。聞けばC氏の家は大阪とのこと。そもそもG20の影響で国際線に制限があったため、前日から彼は東京入りしていたのだ。たまたま友人が大宮に住んでいたために、前夜は大宮に泊まった。この辺りの土地勘に疎い彼は、野田線なら単線だし迷う心配はない、との理由からこのルートを選んでいたのだ。

 

さすがに野田市から大阪までは…ためらう運転手に対し、すでに自棄になっているC氏。

「いいから出してくれ」と。

 

こうなったら仕方がない。この仕事が終わったら3日は休みを取ろうと決意したD氏。C氏を乗せて、イザ大阪へ。

 

 

7時間後。辺りはすっかり薄暗くなっていた。C氏を乗せたタクシーは、まだ大阪にたどり着くことが出来なかった。いや、大阪にはたどり着いたのだが、C氏の暮らす町にたどり着けなかったのだ。G20の影響で交通規制があり、検問も所々で行われていたため、渋滞もひどかった。なかなか前に進めない。

 

D氏は苛立っていた。後部座席で気持ち良さそうに眠っているC氏を見て、殺意すら感じていた。チクショウ、こんなヤツ乗せるんじゃなかった。そんなことを考えていた時だった。渋滞でノロノロとしか進まない大通りで、何人かの警察官がこちらに近づいてきた。また検問だ。

 

もう嫌だ。D氏はウンザリだった。ここに至るまでに、すでに何回も検問を受けてきた。同じことを何度も訊かれた。なぜ千葉県の野田市なんてところから大阪までタクシーの運転手が客を乗せたりしているのかと。

 

知るか! そんなこと俺に訊くな!

 

D氏の我慢は限界に達していた。もうこんな仕事どうなったっていい。彼は突発的な衝動からタクシーのサイドブレーキを引くと、運転席の扉を開けた。

「もうやってられん! おまわりさん、あんた、代わりにこのお客さん運んでくれよ!」

 

そう言ってD氏はタクシーから降り立つと、呆気に取られた警察官、E氏の前から一気に逃げ出したのだった。

 

コンマ数秒、我にかえる警察官、E氏。

なにを言ってんだアイツ? 

怪訝に思いながらも、目の前で獲物が逃げればそれを追いかけるのが警察官の本能だ。彼は逃げた運転手を追った。

 

追う者と追われる者。大渋滞の大通りでの大捕物。逃げる運転手は速かった。日頃から運動不足にならないよう気を付けていた彼は、休日にはランニングを欠かしたことがない。

二人の差は、徐々に広がっていった。

 

一方、警察官、E氏は焦っていた。なにかはよく分からないが相手が逃走している以上、それが不審者であることは間違いない。しかもこの大捕物は大勢の野次馬たちに目撃されている。このまま相手を逃がしてしまうわけにはいかなかった。強迫観念から、徐々に冷静な判断を失っていく。そして…

 

次の瞬間、E氏は叫んだ。

 

「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

 

そう、その手には拳銃が握られていた。

 

しかし、逃走中の運転手の耳には警察官の言葉は届かない。すでにそれだけの距離が開いていた。まるで拳銃のことなど意に介してもいないように走り続ける相手に、E氏の怒りは爆発した。威嚇射撃などするゆとりもない。たちまち発砲。しかも2発、3発と乱れ撃ち。

 

騒然とする大通り。突然逆上した警察官が発砲したのだ、パニックにならないはずがない。クルマを飛び出すひとびと。右往左往、四方八方に逃げ惑う民衆たち。鳴り響くクラクション。怒号や悲鳴。瞬く間に、辺りは大混乱に陥った。

 

 

大阪で民衆による大暴動が発生した、との知らせは、すぐに政府関係者にも伝わった。

 

警備担当のリーダー、F氏はその知らせを受けて怒り狂った。

どうしてこの大事な時に! 

このG20を無事に乗り切れば出世は間違いなかった。大出世だった。しかし今回もしも失敗したら…転落人生の始まりだ。

 

彼は怒りとともに、慌ててもいた。

速やかに暴動を止めないと。

実際、彼の対応は素早かった。機動隊を出動させた。陣頭指揮に自らも立った。しかし現地にたどり着くと、目の前の惨状に愕然とした。辺りは地獄絵図の様相を呈していた。

 

一瞬にして頭に血がのぼったF氏。ヒステリックに一斉検挙を命じた。

 

ひとりの警察官の発砲により勃発した騒乱は、それを鎮圧しようとした機動隊をも巻き込んで、一気に巨大な暴動と化した。

 

そんな中、折り悪くひとりの外国要人がその地に近づいていた。危険地帯に近づくなど自殺行為に他ならないが、この御仁、暴動をも自らのチカラで制圧できるものと考えていた。実際、巨体を揺すって悪人面でノシノシと歩くその姿は、迫力があった。しかも、今は防弾仕様の重装備リムジンだ。暴動など、恐れるに足りぬ!

 

まるで戦車が荒れ地を踏み均していくかのごとく、外国要人を乗せたリムジンが暴動の中心へと向かっていく。あまりの大胆不敵な行軍に、暴徒と化していた民衆も、思わず道をあけた。まさにモーゼの十戒さながら。静まり返る大阪大通り。やがてリムジンが停まる。

 

固唾を呑んだ民衆たちの前に、かの外国要人は姿を見せた。自信に充ち溢れ、己に刃向かう者など世界にひとりもいないとでもいうかのようなふてぶてしい面構え。すぐ隣には、いつすり寄ったのか、へつらい顔の機動隊リーダー、F氏。

 

これで騒動は収束するかに思われた。この偉大なる大帝国の要人によって、すべては丸く収まるものと、そう思われた。

 

しかし、違った。

何故ならこの騒動に乗じて、諸外国要人たちがひとりの男の命を狙っていたからだ。

 

満悦顔の外国要人。しかし彼は知らない。彼を取り囲む民衆たちのさらに外側で、彼の命を狙う19人のG氏の存在を。

 

 

…………………………

 

…はい、長々と失礼しました。思わず楽しくなって書きとおしてしまった。

 

ゴミ箱の使用禁止という、いつもと違うアクシデントに対してひとりの人間がちょっとした出来心で別の場所にゴミを捨ててしまったことから始まるトラブルの連鎖…どんなに離れた場所であっても用心するに越したことはないんだよ、という教訓であった。

 

 

ん?

 

ちょっと待ってくれ。事の発端は、いつもなら使えるはずのゴミ箱を使用禁止にしたことから始まったのだ。

 

ということは…

 

野田線野田市駅のゴミ箱は、やっぱりフツーに使えるままにしておいた方がいいんじゃない?

 

というお話であった!

 

 

 

はい、無事にオチもついたし、今日のところはこれにてオシマイ。

 

みなさま、お疲れさまでした!