高北謙一郎の「物語の種」

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サルの自撮りの著作権

ふと思い出したのだが、数年前にジャングルのサルが写真家のカメラを使って自撮りをした。なんて珍事があった。

 

自然写真家の男性が、ジャングルの中に三脚を使ってカメラを設置した。

しばらくして、彼がカメラから離れた隙にサルが寄ってきて自撮りをした。当然ぐうぜんの産物ではあるが、やたら写りもよく、写真家は喜んでそれを公表した。世間の評判も上々だった。

 

ところがここで「待った!」がかかった。写真を撮ったのはサルであって写真家ではない。だから、その著作権はサルにあるはずだ。と。

 

最初にそれを聞いた時は「なんてバカらしい」と呆れ返ったものだが、しかし考えれば考えるほどムズカシイ問題だと思えてきた。たしかに、彼は写真家としては何もしていない。ファインダーを覗いていたわけでもないし、シャッターを切ったわけでもないのだ。サルに著作権があるかどうかはともかく、果たして写真家に著作権はあるのか? 

 

当初はそれなりに話題になったものだが、裁判が長引くにつれて、人々の記憶から薄れていった。

 

 

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と、そんなこんなでいつの間にやら私も忘れてしまっていたが、先ほど「ああそういえば」と思い出して確認してみた。その結果、およそ2年がかりの裁判の末、写真家が勝訴した、とのことが判明。

 

サルの自撮り写真の著作権めぐる訴訟、写真家が勝訴 - BBCニュース

 

 

なんとなくではあるが、裁判所の判決にホッとした。

 

 

もう一度、冷静にこの事件を考えてみるに、どうしてこれほどまでに騒ぎになってしまったのかといえば、写真を撮ったのがあるていど個体の判別がつくサルだったからこそ、だと思う。

たとえば写真家が海の上にカメラを設置したとしよう。そこにトビウオが群れで現れたとしよう。その途中、群れの中の1匹がカメラにぶつかり、その際たまたまシャッターを押してしまった。なんてことになったら、どのトビウオがシャッターを切ったのかも分からない。

これだったら、誰も今回のような騒ぎは起こさないのではないだろうか? 

ラッキーだったね。で、終わりではないだろうか?

 まさかトビウオ愛護団体なる謎の集団がその1匹を特定するために奔走する、なんてことにもならないだろう。きっと。

 

 

本来はそんな程度のハナシなのだ。

 

サルが相手だったから悪かったのだ。というだけのこと。

 

やはり、たとえシャッターは切らなかったとしても、著作権は写真家に与えられるべきものだと思う。写真を撮るという意志のもと、ジャングルの奥ふかくまで機材を運んだ彼に、それ相応の敬意が払われることを願う。

そして長期間に及ぶ裁判は、おそらく愛護団体よりも写真家の彼を疲弊させただろう。

本当に、お疲れさまでした。