高北謙一郎の「物語の種」

読み物としてお楽しみいただけるブログを目指して日々更新中。

花屋さんのお話

ひとり暮らしをしていたころから、時どき花を買って部屋に飾っていた。

 

考えてみればなかなかコワいことである。

 

考えてもみなかった。

 

私としては、単に出かける予定があまりなく、3日、4日と部屋に引きこもる生活になりそうだ、と思った時、なんとなく花があった方が気分的に暗くならないだろう、というぐらいの単純な発想でしかなかった。

 

 

サテ、話は変わるが…いや、たいして変わらないが、ひとりで花を買うようになったばかりのころ、花屋さんでの買い物はいつもスムーズに行かないものだと、そう思っていた。

 

最初に買いに行ったお店では、「絵描きさんですか?」などと見当違いもいいところの質問を受けた。花をモデルに静物画でも描くと思ったのかもしれないが、私の描く絵を見たら間違ってもそんなことは訊かないだろう。

 

2店目では、「一輪挿しに飾りたいんですけど」と伝えたにも関わらず、抱えきれないほどの花束をアレンジされた。5000円のベンキョー代は今でも根に持っている。

 

どうもうまくいかない。なにか奇妙なオーラでも発しているのだろうか、私は。

 

そもそも花屋さんにオトコひとりで入ること自体が、微妙に浮くのだ。これまで色々な花屋さんを覗いてみたが、あまりスマートに花を購入できる男性を目にしていない。いわんやこの、自意識過剰の私に至っては。

 

自然体では買えない「何か」が、そこには存在しているような気がする。

 

どうやら「花+男性」という組み合わせは、お店のスタッフ及びそこに居合わせた女性客たちに、必要以上の物語を生じさせるらしい。妄想、といってもいいだろう。何の目的もなく「ただ部屋に飾りたいから」なんてことは、物語を期待した側からすれば、あまりにも呆気なく退屈なのだろう。

 

おそらく花屋さんという空間の中に漂う「何か」とは、「花+男性」という組み合わせの中に隠された「物語」を期待する「受け皿」のようなものではないだろうか、と、ホントかよ? とか思いながらツラツラと考えた。

 

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彩度を抑えてちょっとシックな印象で

だが、昨日の私は違った。昨日の私には「物語」があった。スバラシイ。

 

「今日は結婚記念日なんで」――そう言ってしまえばすべてカタがつく。

 

私は安心して店内に足を踏み入れた。が、その時、

 

ふと、一抹の不安が脳裏をよぎった。

 

結婚記念日なんて言ってしまったら、

あんまりショボい買い物は出来ないのではないか? と。

 

 

しまった。花屋さんに行く前にちょっと奮発してワインを買ってしまったのだ。財布の中身が少々サビシイ。どうしたものか…

 

そんなことを考えていると、案の定どこか期待を抱いた目(完全に私の主観)でスタッフの女性が声を掛けてきた。

「何かお探しですか?」

 

返答に窮する私。

 

サテどうしたものか。

 

当初の作戦どおり「結婚記念日なんで」の印籠を取り出すか、それとも愚直なまでに「部屋に飾りたい」と繰り返すか。

 

で、結局トチ狂った私は、珍妙な台詞を口にした。

 

「あの、この花を中心に据えて、秋の雰囲気でまとめたいんですけど」

 

我ながら驚いた。この花って、単に目の前にあったオレンジ色の花じゃないか。秋の雰囲気ってなんだよ? 今は秋なんだから目の前いっぱい暖色系の花ばっかりじゃないか。などと今さら自分にツッコミを入れても仕方がない。私はなおも畳みかける。

「お姉さんなら、どれを選ぶ?」

 

なんなんだ? おい、なんなんだ、この妙に場慣れしているようでいながら何も伝えていない発言は? 予算はどれくらいか、何に飾るのか、自宅用か、花束にしてプレゼントにするのか、それらの情報は何ひとつ伝えられていないではないか!!

 

不安を胸にスタッフの女性をチラ見。

 

ところが、すでに彼女は店内の花をザっと見渡していた。見渡して、

「わたしなら、これとこれと…あとこれでまとめますね」

 

スゲェ!

 

情報が限られている中、自分の候補だけ伝えてあとの選択を私に託したというのだろうか? この子、スゲェ…そんなことを考えながら、言われるがままに彼女のチョイスに追従する私。

 

自分のイメージとしてはもう少し華やかにしたかったのだが、たしかに秋の雰囲気といえば秋の雰囲気…花屋さんで買い物するだけで、これだけの駆け引きと物語が生まれようとは。

 

今日の結論。いや、昨日の結論。

 

花屋さんは「物語の受け皿」だけにアラズ。

花屋さんは「物語を生み出す場所」でもあるのだった!!!

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秋の雰囲気?